お金になる価値を科学的に作る(VMチャートその3):潜在需要分析
Scientifically Create Value that can be Converted into Money (VM Chart part 3) : Analysis of Potential Demand
「もの」や「サービス」を販売するにはそれらを購入してもらう必要があるので、「もの」や「サービス」を提供(供給)する人(会社)と「もの」や「サービス」が必要(需要)である人(会社)がつながり、お金で取引(トランザクション)できる条件が揃う必要があります。需要と供給がつながることで「もの」や「サービス」が取引されるようになりますが、ただ需要と供給があるだけでは「もの」や「サービス」はお金に変わらないのです。経済学ではこの需要と供給の関係を需要曲線と供給曲線を用いることで「もの」や「サービス」のプライシング(値付け)を考えることができます。ところが、プライシングが適正でも「もの」や「サービス」は売れないのです。つまり、適正なプライシングは「もの」や「サービス」がお金に変わる条件として必要ではあるものの十分ではないのです。
車を運転していてガス欠で車が止まってしまった場合、ガソリンが通常の価格の2倍でも購入したい気持ちになったり、確実に10万円/日もらえるお仕事と確実ではないけど20万円/日もらえるお仕事があった場合に、ある人は確実に10万円/日を求めるかも知れませんが、ある人は20万円/日を求めたりするかも知れません。日常生活で発生する取引は経済学の理論だけでは計算できないことも多く、近年行動経済学として消費者心理とプライシングの関係が研究され人が必ずしも合理的な判断を行わないことが科学的に証明されています。ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーが共同で発表した「プロスペクト理論」は2002年にノーベル経済学賞を受賞し、行動経済学の中核理論として後続的な研究成果が排出され続けています。
価値経済工学では経済学的な視点や心理学的・行動経済学的な視点を踏まえた上で、情報の組合せで変化する需要を分析することで、潜在的な需要を明らかにします。ビジネスにおいて需要に応じた「もの」や「サービス」を市場に供給しますが、この考え方はある市場においてある「もの」や「サービス」に対して需要があるからです。この一方で、市場には様々な需要があり、また同時に様々な「もの」や「サービス」があります。多くの場合、ある「もの」や「サービス」はある需要に対して供給されますが、別の需要には供給されないのです。もしもある「もの」や「サービス」が既存の需要以外にも潜在的な需要があるとしたら同じ「もの」や「サービス」で別の需要に対しても供給できることになり、取引できるお金の量は倍、もしくは何十倍にもなるかも知れません。このような上手い話があるのかと思う人も多いかも知れませんが、意外とこのような現象は多いのです。
「ハイチオール」はエスエス製薬株式会社が製造・販売するL-システインと呼ばれる薬効のあるアミノ酸を主成分とする医薬品ブランドで、シミやソバカス等を改善するお薬として販売されています。つまり、シミやソバカス等を改善したい需要に対して供給されている製品で、この需要と供給の関係においてお金の取引(トランザクション)が成立しています。ところが、ハイチオールの主成分であるL-システインにはアルコールに含まれる有害物室(アセトアルデヒド)を無毒化する作用があるのでアルコールによる頭痛や吐き気の予防や改善、二日酔いの緩和や改善にも効果があるのです。つまり、ハイチオールの潜在需要としてお酒を飲む人やアルコールによる不具合の改善を必要とする人達が分析できます。このハイチオールの副次効果を知っている人もいますが、多くの人にはハイチオールはシミ・ソバカスのお薬として知られてはいますが、一般的には二日酔いのお薬とは思われていないようです。まれに著者のようにハイチオールの副次効果だけを必要としている人もいますが。エスエス製薬さんはこの副次効果も把握している一方でハイチオールのブランドはシミ・ソバカス対策のお薬として認可を得ているので、あえてアルコールに対策のお薬としての認可は得ない戦略のようです。
ハイチオールは一例ですが、ある「もの」や「サービス」が既存の需要だけではなく、潜在的な需要へも供給できるのです。ここで大切なのはある「もの」や「サービス」が備えている情報を分析して異なる需要にも対応させることができるのかについて解析できればとても便利です。この課題に対して開発されたのが潜在需要分析のVDシートとVMチャートです。潜在需要分析VDシートに付いて詳しくは、「価値経済工学:お金になる価値を見える化(KPI)する(VDシートその3):価値の潜在需要分析」コラムを参照して下さい。多くの場合、ある「もの」や「サービス」はある需要に対して開発するので、そもそも他の需要に対して供給することは想定しなくても良いのです。これはある種の思い込みで、同じ情報(ものやサービス)でもその伝え方や表現によって、人々の印象や意思決定は異なるのです。この心理現象はフレーミング効果とも呼ばれ、1981年にプリストン大学名誉教授のダニエル・カーネマンと心理学者のエイモス・トヴェルスキーの共同研究成果としてアメリカの学術誌「サイエンス」に発表されました。情報(需要と供給)に対する「枠組み」(フレーム)をどう設定するかによって、人々の情報に対する受け止め方が変化するのです。VDシートではこの情報の組合せを効率的に抽出しながら需要と供給の関係を分析できるようにし、VMチャートで分析された情報を用いて潜在需要を可視化させながら消費者がお金を支払う条件に情報の集合関係を整理することができます。
潜在需要分析VDシートでは、ある「もの」や「サービス」を必要とするお客様・利用者、利用しない人・企業、なぜ利用しないのかについて分析を行います。表1はウェルネス・ワインについての潜在需要分析VDシート例です。ウェルネス・ワインを必要とするお客様・利用者について、「働いている女性」、「ワインを飲みながら癒されたい人」、「リラクゼーションを楽しみたい人」、「ご褒美を求めている人」、「ハイエンド・ホテル」が分析されました。「働いている女性」に関してはそもそもウェルネス・ワインを開発する際に定義したベクトルの向き、つまり想定している顧客(需要)です。詳しくは、「価値経済工学:お金になる価値を見える化(KPI)する(VDシートその1):価値のお金と同じ機能分析」コラムを参照。「ワインを飲みながら癒されたい人」は働いている女性に限らずウェルネス・ワインを購入してもらえるお客様層で、「リラクゼーションを楽しみたい人」、「ご褒美を求めている人」も同様に想定される顧客層です。「ハイエンド・ホテル」に関してはビジネスのカテゴリーでウェルネス・ワインがハイエンド・ホテルに必要とされると仮定しているもので、本当に必要とされるかは分かりません。ここでのポイントは、ウェルネス・ワインがお金を支払ってでも必要とされる需要を見つけることですが、ウェルネス・ワインを販売するまでは本当に各分析した需要に対してウェルネス・ワインを販売できるのか分かりません。ウェルネス・ワインの価値(情報の集合)がある需要(お客様・利用者の情報)に対応していると考えられるのでこの対応関係がお金により成立すると分析しているのです。ある価値をXとしてその価値を構成する情報が3つ(ix1、ix2、ix3)ある場合、X={ix1、ix2、ix3}とし、ある需要をYとしてその需要を構成する情報が2つ(iy1、iy2)ある場合、Y={iy1、iy2}として、Y=f(X)となる関係(関数)を見つけたいのですが、簡単にはこの魔法の関数fを見つけることはできません。このコラムでは詳細を割愛しますが、価値をある情報の集合Xとし、需要をある情報の集合Yとみなし、この2つの集合を関係付けることができる写像(関数)を解析するのが潜在需要分析のVDシートとVMチャートの役割です。VDシートではこの魔法の関係(写像、関数)を探るために「お客様・利用者」の分析と同じように、ウェルネス・ワインを「利用しない人・企業」と「なぜ利用しないのか」についても分析を行うことで隠れている情報を文章として可視化させて行きます。
表1 ウェルネス・ワインについての潜在需要分析VDシート例
表2は表1の潜在需要分析VDシートを踏まえて作成した潜在需要分析VMチャート例です。VDシートで抽出した需要層をInterest(興味がありそうなお客様・利用者層)のコラム(列)に書き出し、それに対応する「製品/サービス」と「共通正体/源泉」を書き出します。また同時に、No Interest(Interestの逆で、興味がないと思われるお客様・利用者層)も書き出し、それに対応する「製品/サービス」と「共通正体/源泉」も書き出します。Interestの「働いている女性」を例に解説をすると、この働いている女性はウェルネス・ワインを販売できると考えている需要層ですが、この需要層がお金を払ってでも購入すると考えられる製品やサービスとして、「疲れないハイヒール」と「美容効果のあるメガネ」が分析できました。ハイヒールもメガネもウェルネス・ワインとは全く異なる製品ですが、これら3つの製品が共通しているのは働いている女性の需要になる点です。つまり、この3つの製品は製品としては異なるものの、働いている女性の需要に対しては共通する情報を備えているのです。この共通している情報を分析するために表3には働いている女性の需要に対する正体(消費者のニーズ情報)と源泉(製品に対する価値観の情報)をまとめてみました。ウェルネス・ワインの正体と源泉は「お金になる価値を科学的に作る(VMチャートその1):お金になりやすい価値開発」コラムで得た結果を利用しています。ウェルネス・ワインと同様に「疲れないハイヒール」と「美容効果のあるメガネ」の正体と源泉を分析するとウェルネス・ワインの分析では見つけることが出来なかった源泉として、「予防」と「美容効果」を見つけることができました。加えて、ハイエンド・ホテルの分析からは新たな源泉として「高級」も見つけることができました。これらの言葉(情報)はウェルネス・ワインを構成する情報ではないものの働いている女性の需要に対して対応する情報の可能性があります。つまり、ウェルネス・ワインに「予防」、「美容効果」、「高級」の要素を加えることで働いている女性の需要にはより対応することが考えられるのです。ただし、新たな要素を加えればウェルネス・ワインがより売れるようになるのではなく、ある需要に対してお金と交換されやすい情報の部分的な集合を見つけられたに過ぎません。より重要なのはウェルネス・ワインを構成する情報(源泉)と需要を構成する情報(正体)がお金(3つの機能の集合:交換性、計測性、貯留性)によって交換される関係を整理することです。お金がない世界では需要と供給がつながれば消費されますが、消費に対して生産もしくは労働する対価がないので消費されたらなくなってしまいます。この一方で、お金があることにより生産や労働の対価としてお金が支払われることで需要に対して供給を続けることが可能となるのです。
No Interestの分析についても「ウェルネスの意味が分からない人」を例に解説したいと思います。ここではウェルネス・ワインに関心を持たな人やビジネス等の層を分析し、その人やビジネス等がお金を支払ってでも購入したいと思われる製品/サービスとそれらの正体/源泉を分析します。「ウェルネスの意味が分からない人」には「自分を高めることができるサービス」にはお金を支払ってでも需要があると分析し、その正体は見つけることができませでしたが、源泉として「エンハンスメント」を見つけることができました。この言葉は英語のEnhancementをカタカナで表記したものですが、能力などを向上させることを意味しています。同様に「美味しさ」、「楽しさ」、「ノンアルコール」、「栄養価」も新たな源泉として見つけることもできました。ここでのポイントは本来ウェルネス・ワインのお客様にならない人やビジネスを分析し、これら盲点になっている人達が必要としている価値を作ることができるのであれば潜在需要として考慮できるのです。つまり、現在定義しているウェルネス・ワイン(源泉の集合)では関心を持たない層でも新しい源泉の集合を構成することで新しい潜在需要を具体化することでお客様にすることができるのです。この新たに見つけた源泉を既存の源泉に組み入れるかは事業の戦略、ウェルネス・ワインのブランディング戦略、ウェルネス・ワインのマーケティング戦略によるので、直ちに源泉に組み入るのではなく、レゴのブロックのように戦略に応じて利用するブロック(源泉)を変えることで事業やウェルネス・ワインの経済価値を調整することができるのです。
表2 ウェルネス・ワインについての潜在需要分析VMチャート例
表3 働いている女性の需要に対する正体と源泉
潜在需要分析VDシートでは既存の需要と需要が見込めない情報を可視化させ、潜在需要分析VMチャートでは供給する情報の集合(ウェルネス・ワイン:経済価値)と対応する情報を解析することができます。一般的に、ある市場にある商品やサービスを供給するにはその市場における消費者に必要とされ、お金を支払ってでもその商品やサービスが消費者に求められる必要があります。つまり、ある商品やサービスが消費者に必要とされると同時にある層の消費者に適正な価格で供給されることで需要と供給にトランザクション(取引)が生じます。供給するものやサービスを構成している情報(源泉:ものやサービスに対する価値観)の集合が消費者の需要を構成している情報(正体:消費者のニーズ)の集合に対応しているかをVDシートでは可視化させながら分析することができますが、消費者がお金を支払ってでも必要な情報の集合を調べるためにはVMチャートが必要でお金の機能に対応させることで分析した各正体で各需要と潜在需要を整理し、それら正体が対応する源泉を見つけることで消費者がお金を支払ってでも必要とする源泉と正体の対応関係を明らかにして、ある需要層に効果的な情報の集合を戦略的に開発することができるのです。価値経済工学では言葉を数字のように扱うことで科学的に需要と供給の関係を可視化させながら需要と供給において効率的にトランザクション(取引)が成立する確度を高めることができるのです。潜在需要分析VDシートとVMチャートは事業戦略の開発や商品・サービスのブランディング戦略の開発やマーケティング戦略の開発にも応用することができて、事業計画で用いる数値計画と同様に戦略を可視化させながら第三者と共有したり効率的に戦略をレゴのブロックのように再編することができるようになります。
著者 並木 幸久
Ver. 250101001
<参考コラム>
お金になる価値の素
http://wiph.co.jp/wp/vee/element/
お金になる価値の必要条件と十分条件
http://wiph.co.jp/wp/vee/necessary_and_sufficient/
お金になる価値 の見つけ方(VDメソッドその1)
http://wiph.co.jp/wp/vee/vdm_part1/
お金になる価値 の見つけ方(VDメソッドその2)
http://wiph.co.jp/wp/vee/vdm_part2/
お金になる価値を見える化(KPI)する(VDシートその1)
http://wiph.co.jp/wp/column-collection/http-wiph-co-jp-wp-vee-vds_part1/
価値経済工学:お金になる価値を見える化(KPI)する(VDシートその2):価値の機能性分析
http://wiph.co.jp/wp/column-collection/vds2/
価値経済工学:お金になる価値を見える化(KPI)する(VDシートその3):価値の潜在需要分析
http://wiph.co.jp/wp/column-collection/vds3/
お金になる価値を科学的に作る(VMチャートその1):お金になりやすい価値開発
http://wiph.co.jp/wp/column-collection/vmc1/
お金になる価値を科学的に作る(VMチャートその2):情報の機能開発
http://wiph.co.jp/wp/column-collection/vmc2/