価値経済工学:お金になる価値を見える化(KPI)する(VDシートその2):価値の機能性分析

お金になる価値を見える化(KPI)する(VDシートその2):価値の機能性分析Visualizing (KPI) Values that make Money (VD Sheet part 2): Functionality Analysis of Value

 事業や商材のお金になりやすさ、市場性、需要を可視化するためにVD(Value Development)シートが開発されました。このシートは事業や商材の価値を構成する要素を科学的(数学的)に分析し、価値の対象となる市場とその規模を分析する事から始め、①お金と同じ性質の分析(参考コラム:お金になる価値を見える化(KPI)する(VDシートその1):価値のお金と同じ機能分析)、②価値(情報)の機能性分析、③潜在需要の分析を行うことで体系的に事業戦略や販売戦略を誰でもまとめることができるようなります。価値経済工学では誰でも科学的にビジネスを組立てられて、お金を稼げるようになるツールとその理論を研究開発することで、効率的に事業、戦略、投資、マーケティング、ブランディング、非財務情報の企業価値などの可視化や計画に利用してもらうことを目指しています。

 ここからは、「お金になる価値を見える化(KPI)する(VDシートその1):価値のお金と同じ機能分析)」コラムを読んだことを前提として、価値(情報)の機能性分析方法を解説したいと思います。表1には経済価値:ウェルネス・ワインについて価値(情報)の機能性分析を行った例をまとめてあります。この分析では、類似事業者、事業の名称、お金の請求方法に関して分析を行うことである経済価値がリアルな市場においてどのようのお金に変化しているのかその機能を分析します。ここで、類似事業者に関しては、ウェルネス・ワインを販売しているもしくは類似している商品を販売している事業者を調査します。この例では(株)ABCワイン貿易とXYZウェルネスクラブ(株)がウェルネス・ワインと類似した商品を販売していることが確認きたので、「類似事業者はいるか?」の下のセルにこの2社を追記します。次にこの類似事業者がどのような名称でウェルネス・ワインと類似する商品・事業を販売しているのかを確認し、その商品・事業の名称を「事業の名称は?」の下のセルに記載します。この例では、

  • 癒しのワイン
  • ウェルネス・ワイン
  • ウェルネスクラブ:有機葡萄栽培とナチュラルワインの購入クラブ

と言う名称で類似事業者がウェルネス・ワインと類似する商品・事業を販売していることが確認できました。最後に、これら類似商品・事業がどのように販売されてお金が請求されているのかを確認し、「お金の請求方法は?」の下のセルに記入します。この例では、

  • WEBからの購入によるサブスクリプション販売:月額4,980円で癒しの白ワインと赤ワインが届く
  • WEBでの販売:送料別で3,000円から25,000円で販売
  • 大手百貨店での小売り:税別5,000~30,000円で販売
  • 会員制度による有機葡萄を用いたワイン製造・購入への投資:一口100万円で年間250本/口のナチュラルワインを得られて、販売委託も可能

と調査できました。

 類似事業者の調査によりウェルネス・ワインと類似する価値が市場で取引されていることが確認できました。調査の度合にもよりますが少なくとも2社がウェルネス・ワインに類似する価値をお金にできていることが仮定できます。ここで仮定とするのはその類似事業者が実際にウェルネス・ワインに類似する商品・サービスから売上を上げているか分からないのでこの時点ではウェルネス・ワインに市場性があることが仮定できるに止まります。次に、事業の名称の調査においてどのような言葉でウェルネス・ワインと類似する商品・サービスが販売されていて、お金にできているのかを考察します。「癒しのワイン」は「癒し」と「ワイン」に分解できるので「癒しのワイン」をその集合とした場合に、十分条件として「癒し」と「ワイン」が包含されていて、癒しとワインを求めている消費者に対して情報の機能性がありそうです。癒しを求めている消費者はお金を支払うことで癒しと交換でき、ワインを求めている消費者はお金を払うことでワインと交換でき、癒しとワインの両方を求めている消費者はお金を支払うことで2つの価値と交換することができそうですね。「癒し」と「ワイン」のどちらか一方ではなく、その各価値の共通部分(積集合)に対応した価値観を持っている消費者には癒しのワインは分かりやい言葉ですが、この一方で、癒しではなく、ウェルネスを求めている消費者には必ずしも機能しない言葉かも知れません。「癒し」と「ウェルネス」の言葉の意味を比較した場合、「癒し」と言えば「ウェルネス」、その逆に「ウェルネス」と言えば「癒し」と述べた場合、多くの消費者にはどちらの言い回しも意味は通じそうですが、後者の言い回しの方がより具体的な印象があります。つまり、「癒し」の方が「ウェルネス」よりも具体的な言葉で、「ウェルネス」は「癒し」よりも抽象的な言葉であるため各言葉の十分条件となり得る言葉の濃度が異なるのです。ここで重要なのは「ウェルネス」も「癒し」もその十分条件になる言葉は無限に存在しうるのですが、その十分条件になりうる言葉の濃度は「ウェルネス」の方が高い点です。分かり難いので以下図1にこの関係をまとめてみました。

図1 「ウェルネス」と「癒し」の意味の集合関係

 図1の関係はGoogleが無料提供しているAIサービスGeminiを利用(8月12日2024年)して、「ウェルネスに含まれる意味は?」と「癒しに含まれる意味は?」とそれぞれ質問して得た回答をまとめています。この実験結果から「ウェルネス」の意味の方が抽象的でより多くの意味を包含していて、「癒し」の方がより具体的で限定された意味を包含していることが理解できます。また、図2にはGeminiを利用して癒しの意味を深堀した結果をまとめてみました。その結果として癒しの意味を深堀すると肉体的な癒し、精神的な癒し、心のやすらぎに大別でき、その効果として健康増進、集中力向上、人間関係の改善、創造力の向上が暗示され、その具体的な手段(癒し方)として自然との触れ合い、音楽鑑賞、読書、アロマテラピー、瞑想、ヨガ、温泉、スパが導き出されました。対照的に「ウェルネス」に関しては具体的な効果や手段は抽出されなかった一方でウェルネスと健康の違いとして、

   健康: 病気ではない状態を指すことが多い。

   ウェルネス: 健康に加えて、心身両面の幸福や充実した生活を指す。

との結果を得ました。また、なぜウェルネスが注目されているのかについては、「現代社会では、単に病気にならないだけでなく、より豊かで充実した人生を送りたいという人が増えています。ウェルネスは、そうした人々のニーズに応える概念として注目されています。」と分析してくれました。

図2 「癒し」の意味を深堀した結果

 Geminiを用いた実験結果から分析できることはインターネット上に存在する情報において、「ウェルネス」と「癒し」に関してその抽象性と具体性に関して異なる事、「癒し」に関してはより具体的な言葉につながる事が検証できました。インターネット上に限らず、人と人のコミュニケーションやビジネスにおいても同じ意味合いで「ウェルネス」と「癒し」が使われていていることが想像(推察)できます。ウェルネス・ワインの場合、「ウェルネス」と「癒し」の共通部分を満たす価値観を持っている消費者に対して「癒しのワイン」は機能しやすい言葉ですが、「ウェルネス」と「癒し」は全ての意味において対応する訳ではないので、共通していない部分の価値観を持っている消費者には機能しにくいことが分析できます。つまり、癒しのワインはウェルネス・ワインと類似しているか価値を備えているものの、癒しのワインを購入する消費者に対して必ずしもウェルネス・ワインが購入されることはなさそうであることが整理できます。

 続いてお金の請求方法に関して、癒しのワインは「WEBからの購入によるサブスクリプション販売:月額4,980円で癒しの白ワインと赤ワインが届く」ことでお金が取引されていることが分かりました。ここで大切なのはこの事業者がなぜ癒しのワインをWEBによるサブスクリプション方式で販売しているか考察する必要があります。ネットショッピングであれば消費者はほしい物を好きな時に検索し、オンラインで決済することで商品を購入し、購入したものは配送により消費者に届きます。また白ワインを好む人もいれば赤ワインを好む人もいるはずですが、この事業者はあえて消費者の選択肢を無くし、癒しの白ワインと赤ワインのセットを定額で毎月配送する取引を採用しているのです。この特異的な販売方法には先行事業者の経験とノウハウが反映されているはずなので癒しのワインの販売方法として単発でつどつど癒しのワインを販売するよりも継続的に毎月白と赤ワインを購入してもらう戦略に有意性がありそうです。一般的なワインはWEBで単発販売されているのに、癒しのワインではなぜ単発販売されていないのか考察することでウェルネス・ワインの販売戦略とお金になりやすい売り方を開発しやすくなります。

 次にウェルネス・ワインと同じ名称でウェルネス・ワインを販売している事業者がいます。この結果からウェルネス・ワインの名称には市場性があり、この名称自体が消費者に機能していてお金が取引されているようです。そのお金の請求方法を調べると「WEBでの販売:送料別で3,000円から25,000円で販売」と「大手百貨店での小売り:税別5,000~30,000円で販売」の2通りの方法で販売されています。つまり、WEBでも対面でも消費者がウェルネス・ワインにお金を支払うことが確認できて、更に、その価格帯が3,000円から30,000円であれば消費者はお金をウェルネス・ワインの対価として支払うことが整理できます。この結果から当初定価3,000円で販売を計画していたウェルネス・ワインの価格は先行事業者が販売しているウェルネス・ワインの価格帯では最も安い価格である事が確認できたので、販売する価格においては優位性がありそうです。但し、ワインは品質やブランドでその価格が変わるので、安価なウェルネス・ワインが販売したい消費者に受け入れられるのか考察する必要もありそうです。また、市場で同じ事業の名称を見つけた場合、その事業者が商標権を取得しているか確認する必要があります。もしも他の事業者がウェルネス・ワインの商標権を取得しているのであればウェルネス・ワインの名称を変更する必要があるからです。

 続いて、別の事業者が「ウェルネスクラブ:有機葡萄栽培とナチュラルワインの購入クラブ」の事業名称でウェルネス・ワインを販売しているようです。この事業者は「会員制度による有機葡萄を用いたワイン製造・購入への投資:一口100万円税別で年間250本/口のナチュラルワインを得られて、販売委託も可能」とする投資により消費者より資金を集めて、集めた資金で大量のナチュラルワインを消費者に製造・販売する方式で、更にオプションとしてその製造されたワインの販売も委託できるようです。100万円÷250本を計算するとワインの単価が4,000円/本であることが計算できます。この価格は他の事業者がウェルネス・ワインを販売している価格帯において安い価格である事が分析できます。この事業者と同じ販売方法を行うには金融庁の免許・許可・登録等が必要になりそうですが、この事業者はナチュラルワインの販売を投資と組合わせ、更に販売の代行まで行うことで投資家(消費者)にナチュラワインを単に購入する以上の付加価値、エンターテイメント性、期待経済を提案しています。その一方でナチュラルワインの小売りも行っているようですが、その購入方法やお金の請求方法が不明である事が分かりました。つまり、この事業者は製造されたナチュラルワインを小売り販売するのが事業の目的ではなく、ワインを販売できる別の事業者に販売を委託している可能性が推察できます。

 ここまでの分析で重要なのはナチュラルワインとウェルネス・ワインの違いで、これは癒しのワインでも分析した観点と同じですが、癒しのワインを販売している事業者と同じようにワインを小売り販売していない点です。つまり、ウェルネス・ワインやその類似する商品はその商品を単に小売り販売するよりもサブスクリプションや投資商品として販売する方が市場ではお金になりやすい性質があるのかも知れません。

 以上では架空の類似事業者、事業名称、請求方法を用いて価値(情報)の機能性分析のVDシートの運用方法を解説してみました。お金と同じ性質の分析のVDシートではウェルネス・ワイン(定義した経済価値)のお金になりやすさをシートにまとめながら分析しましたが、価値の機能性分析のVDシートではウェルネス・ワインの市場性をシートにまとめながら分析しました。各VDシートの目的は効率よく事業戦略や販売戦略を組立てることで、パソコンの前に座ったものの何を企画書にまとめて良いのか分からなくなったり、無意味な検索をして時間を浪費したりする時間を無くして効率的に事業分析や戦略立案に必要な情報をまとめながら分析することができます。VDシートの役割は必要な情報を可視化させながら基礎的な分析を行えることで、このVDシートの結果を効率的に運用するために開発されたのがVMチャートになります。各VMチャートに関しては別のコラムで解説したいと思います。

著者 並木 幸久

Ver. 240813001

<参考コラム>

お金になる価値の素
http://wiph.co.jp/wp/vee/element/

お金になる価値の必要条件と十分条件
http://wiph.co.jp/wp/vee/necessary_and_sufficient/

お金になる価値 の見つけ方(VDメソッドその1)
http://wiph.co.jp/wp/vee/vdm_part1/

お金になる価値 の見つけ方(VDメソッドその2)
http://wiph.co.jp/wp/vee/vdm_part2/

お金になる価値を見える化(KPI)する(VDシートその1):価値のお金と同じ機能分析
http://wiph.co.jp/wp/column-collection/http-wiph-co-jp-wp-vee-vds_part1/