価値経済工学:お金になる価値を見える化(KPI)する(VDシートその3):価値の潜在需要分析

お金になる価値を見える化(KPI)する(VDシートその3):価値の潜在需要分析
Visualizing (KPI) Values that make Money (VD Sheet part 3): Potential Demand Analysis of Value

 科学的に事業計画や投資計画、効率的なマーケティング戦略やブランディング開発を行うことはできないのか悩みながら研究を行い、数学や経済学を基本に効率的で効果的なメソッドを開発してきましたが、課題は理解や習得が難しいため、限られた専門家としか議論することができませんでした。この課題を解決するために、高校生程度の知識があれば科学的にビジネスでお金を作ることができるメソッドの研究開発を続けています。まだまだ課題は山積していますが、工夫と改良を続けることで、時間(努力)対効果(成果)にできるメソッドを完成させ、改善することを続けて行きます。

 近年では、非財務情報の企業価値評価や企業の価値評価などに利用されることが多く、お金になる価値開発以外の事例が増えています。別のコラムでは非財務情報の企業価値を可視化させて、企業価値を評価する方法を解説したいと思います。

 ここからは、「お金になる価値を見える化(KPI)する(VDシートその1):価値のお金と同じ機能分析」と「お金になる価値を見える化(KPI)する(VDシートその2):価値の機能性分析」コラムを読んだことを前提として、価値(情報)の潜在需要分析方法を解説したいと思います。

 表1には経済価値:ウェルネス・ワインについて価値(情報)の潜在需要分析を行った例をまとめてあります。この分析では、「お客様・利用者」、「利用しない人・企業」、「なぜ利用しないのか」に関して分析を行うことである経済価値が消費者に対する需要と潜在需要のメカニズムを分析します。ここで、お客様・利用者に関しては、ウェルネス・ワインを購入すると思われるお客様の条件や企業を書き出します。この例では、

  1. 働いている女性
  2. ワインを飲みながら癒されたい人
  3. リラクゼーションを楽しみたい人
  4. ご褒美を求めている人
  5. ハイエンドホテル

を抽出しました。「働いている女性」はこの分析の経済価値であるウェルネス・ワインのベクトル(販売対象)として定義しているお客様の層で、「ワインを飲みながら癒されたい人」、「リラクゼーションを楽しみたい人」、「ご褒美を求めいる人」、「ハイエンドホテル」は価値の潜在需要分析を進める過程で閃いた潜在的なお客様・利用者です。当初は思い浮かばなかったものの、価値のお金と同じ機能分析や価値の機能性分析を経たことにより、ワインを飲みながら癒されたい人への需要が描けるようになりました。ここでのポイントは単にワインを楽しむだけではなく、ワインを楽しみたい人達の集合と癒しを得たい人達の集合のどちらか一方の集合ではなく、両方の条件を満たせる共通集合(積集合)の関係にある人達がお客様になりそうだと導き出せたことです。また、「リラクゼーションを楽しみたい人」に関してはウェルネス・ワインの価値を構成する要素(元:源泉 注:数学の集合論では元(げん)と言いますが、価値経済工学では源泉と言います。)である「飲むマインドフルネス」、「ストレス緩和」、「疲労回復」、「自然との調和」(表2参考)に関わる需要層で、単にワインを楽しむだけではなく、ワインを楽しみたい人達の集合とリラクゼーションを楽しみたい人達の集合のどちらか一方の集合ではなく、両方の条件を満たせる共通集合(積集合)の関係にある人達がお客様になりそうだと導き出せました。

表1 価値の需要分析シート例

表2 ウェルネス・ワインを構成する源泉(元:要素)分析表

 「ご褒美を求めている人」に関してはウェルネス・ワインがただのワインではなく、ウェルネス・ワインを飲む人をイメージするとウェルネス・ワインを消費する人には特別な目的が浮かんできます。この特別な目的を整理した結果、ウェルネス・ワインがご褒美として消費される可能性に気が付きました。

 最後に、「ハイエンドホテル」に関しては特別な場所で洗練されているイメージがあります。日常的にハイエンドホテルに宿泊する人もいると思いますが、特別な場所で楽しめるワインとしてウェルネス・ワインは親和性があることに気が付くことができました。その結果として、インターネットやワインショップ等の小売店で販売する以外に、ハイエンドホテルで特別な時間を過ごしたい宿泊客に需要があるかも知れない事が思い浮かびました。

次に、「利用しない人・企業?」として、ここでの例として、

  1. ワインの専門家やワイン自体を楽しみたい人
  2. ウェルネスの意味が分からない人
  3. ウェルネスに関心がない人
  4. アルコールを飲めない人
  5. ワインが嫌いな人
  6. 医療施設

を書き出すことができました。「ワインの専門家やワイン自体を楽しみたい人」にはウェルネス・ワインは好まれない気がしています。ソムリエの友人にも確認してみたのですが、飲んでみたいとは思わないとのことで、品質の良くないワインをウェルネスの付加価値で販売しているのではないのかと疑われてしまいました。ワインの品質は決して悪くないのですが、ウェルネスの呼称がワイン自体の価値を歪めてしまうようです。ここでの気づきは「ウェルネス」と「ワイン」は相乗効果が期待できる言葉と思い込んでいたのですが、分析を重ねる過程において、ある層の人に対しては、ウェルネス・ワインは商品としてネガティブな印象を与えてしまうこともある事に気が付けました。

 更に、「ウェルネスの意味が分からない人」や「ウェルネスに関心がない人」にはウェルネス・ワインの付加価値は機能しなさそうです。そもそもネーミング自体がナンセンスに思われるかも知れませんし、ウェルネス・ワインへの期待そのものがないと思わる人達がいることにも気が付きました。その一方で、ウェルネスの意味が分かり、関心がある人でも「アルコールを飲めない人」や「ワインが嫌いな人」には需要がなさそうです。ここでの気づきとして、ウェルネスを理解できる人でウェルネスが嫌いな人は少ないと思いますが、ワインが嫌いな人は確かに一定数いることを経験的に理解していた点です。その結果として、ウェルネス・ワインを販売するためには「ウェルネス」もしくは「ワイン」のどちらか一方が嫌いや苦手な人には受け入れてもらえない事ですが、冷静に考えれば当たり前のことかも知れません。

 最後に、医療施設に関しては、アルコール飲料であるワインはそもそも親和性が悪そうです。お薬を利用しいる人はアルコール飲料との飲み合わせや副作用を気にする必要があるのと医療施設でアルコールの摂取を勧めたり販売したりするのはイメージし難いですね。

残った分析は、「なぜ利用しないのか」についての分析です。ここでの例では、

  1. ワインとしての品質が悪い印象があるから
  2. ウェルネスとワインの関係が分からないから
  3. ウェルネスの意味が分からないから
  4. ウェルネスに関心がないから
  5. アルコールにアレルギーがあるから
  6. アルコールが苦手だから
  7. ワインが苦手だから
  8. ブドウが苦手だから
  9. ブドウにアレルギーがあるから
  10. 医療事故につながるリスクがあるから

と分析できました。この分析は前に行った「利用しない人・企業」と連動するものなので、分析や回答が重なることもありますが、先ず「ワインとしての品質が悪い印象があるから」と「ウェルネスとワインの関係が分からないから」については「ワインの専門家やワイン自体を楽しみたい人」にあてはまる理由で、「ウェルネス」と「ワイン」のポジティブな相乗効果だけに意識が傾き過ぎていて「ワイン」の専門家やワイン自体を楽しみたい人達にはある種不要または不明な言葉としてウェルネスがワインの価値を形成しているのです。ボルドースタイルのワインやブルゴーニュスタイルのワインであればボルドースタイルはブレンドワインで、ブルゴーニュスタイルのワインは単品種で、白ワインはシャルドネ種で赤ワインはピノノワール種から作られていることが連想できますが、ウェルネス・ワインと言われた場合に連想できるワインの特徴や特性がないのです。この結果から、ウェルネス・ワインはワインではあるもののワインそのものの価値よりもウェルネスの付加価値に支配される傾向が理解できてきました。

 次に、「ウェルネスとワインの関係が分からないから」、「ウェルネスの意味が分からないから」、「ウェルネスに関心がないから」に関してはウェルネスが阻害要因になっているようです。ウェルネスは誰でも理解していると思い込んでいたのですが、ウェルネスを知らない人がいることやウェルネスが必ずしも付加価値にならないことが分析できました。これらの気付きはウェルネス・ワインを販売する動機となったウェルネスが持っているポジティブな言葉の意味が必ずしも全ての人には機能しない事実で、ある一方向からウェルネス・ワインを分析している限りでは、ウェルネス・ワインの持っているネガティブな印象には気づくことはできないのです。ウェルネス・ワインは良い商品だから誰にでも売れると思い込んでいた一方で、ある特定の条件を満たした人達には売れそうなワインであることが販売者の価値観としてアップデートされたのです。

 「アルコールにアレルギーがあるから」、「アルコールが苦手だから」、「ワインが苦手だから」、「ブドウが苦手だから」、「ブドウにアレルギーがあるから」に関しては消費者の体質や趣向に関わるもので、アジア人の場合遺伝的にアルコールを飲むことができない人が一定数存在していて、特に日本人は他の人種よりもアルコールを体内で分解することができないもしくは分解能力が弱い人が多いことが知られています。また、ブドウの中に含まれている特定のタンパク質に対してアレルギー反応を引き起こす人もいます。アレルギーに気が付いていない人もいるのですが、ブドウ摂取後数分から数時間以内に皮膚に出現するかゆみを伴う赤斑や湿疹、じんましん、口や喉が痒くて腫れるような症状がでる人はアレルギー検査をすることをお勧めします。ウェルネスは体質や趣向には影響がありませんが、ワインには体質や趣向に関わる需要の阻害要因があることが理解できました。ある種当たり前のことですが、ワインが苦手な人達に対してウェルネス・ワインを販売するのは難しいことに気が付きました。

 最後に「医療事故につながるリスクがあるから」に関してはワインを飲める人でもアルコールやブドウが摂取している薬と合わないことや副作用を引き起こすリスクが考えられます。ワインが好きな人でもアルコールの摂取を控えることを医師や医療従事者から告げられているにも関わらず健康に良さそうだからウェルネス・ワインを飲んでしまうのは回避したい消費です。ウェルネス・ワインはウェルネスを理解できる人からすれば健康にも病気にも良さそうな印象を与えてしまう負の側面があることが見えてきました。薬機法にも抵触するリスクがあるので、消費者にはウェルネスの意味を薬効や治療と取り違えないように厳重に管理する必要がありそうです。ウェルネスはポジティブな言葉だから必ずしも販売促進につながる訳ではなく、その言葉を取り違えた消費者に事故が生じた場合、ウェルネス・ワインの販売者は責任を問われる事態に至るかも知れません。このようなリスクはウェルネス・ワインを製造販売する事業計画からは見えてきませんでしたが、価値の潜在需要分析を行う過程で明らかになりました。

 ここまでの分析で重要なのは、ウェルネス・ワインをほしがりそうな消費者だけでなく、ウェルネス・ワインをほしくない消費者の目線でも分析を行うことで、異なる視点でウェルネス・ワインの可能性と問題点を可視化できたことです。ウェルネスもワインも一定のファンがいる言葉ですが、全ての人に対して受け入れてもらえる言葉ではないのです。事業計画やマーケディング戦略を作る場合、時間と売上等のKPIできる数値が重要になりがちで商品やサービスが備えている見えていないポジティブな価値やネガティブな価値は考慮されないまま計画や戦略が描かれがちです。価値経済工学ではある事業や商品/サービスが包含している価値の要素を可視化し、そのお金と同じ機能、機能性、潜在需要を分析することで見えない価値を可視化するVDメソッド(参考コラム:お金になる価値 の見つけ方(VDメソッドその1):価値のお金と同じ機能分析お金になる価値 の見つけ方(VDメソッドその2):価値の機能性分析)を運用しています。事業計画作りやマーケティングに長けている人からすればある種当たり前の分析かも知れませんが、VDシートを運用することで誰でもビジネスに必要な情報を機能的にステップバイステップで可視化させて整理することができるようになるのです。

 以上では架空のお客様・利用者、利用しない人・企業、なぜ利用しないか(利用しない理由)を用いて価値(情報)の潜在需要分析のVDシートの運用方法を解説してみました。お金と同じ性質の分析のVDシートではウェルネス・ワイン(定義した経済価値)のお金になりやすさをシートにまとめながら分析し、価値の機能性分析のVDシートではウェルネス・ワインの市場性をシートにまとめながら分析し、価値の潜在需要分析のVDシートではウェルネス・ワインの潜在的な消費者の需要と課題をシートにまとめることで分析しました。各VDシートの目的は効率よく事業戦略や販売戦略を組立てることで、パソコンの前に座ったものの何を企画書にまとめて良いのか分からなくなったり、無意味な検索をして時間を浪費したりする時間を無くして効率的に事業分析や戦略立案に必要な情報をまとめながら分析することができます。VDシートの役割は必要な情報を可視化させながら基礎的な分析を行えることで、このVDシートの結果を効率的に運用するために開発されたのがVMチャートになります。各VMチャートに関しては別のコラムで解説したいと思います。

著者 並木 幸久

Ver. 240818001

<参考コラム>

お金になる価値の素
http://wiph.co.jp/wp/vee/element/

お金になる価値の必要条件と十分条件
http://wiph.co.jp/wp/vee/necessary_and_sufficient/

お金になる価値 の見つけ方(VDメソッドその1)
http://wiph.co.jp/wp/vee/vdm_part1/

お金になる価値 の見つけ方(VDメソッドその2)
http://wiph.co.jp/wp/vee/vdm_part2/

お金になる価値を見える化(KPI)する(VDシートその1):価値のお金と同じ機能分析
http://wiph.co.jp/wp/column-collection/http-wiph-co-jp-wp-vee-vds_part1/

価値経済工学:お金になる価値を見える化(KPI)する(VDシートその2):価値の機能性分析
http://wiph.co.jp/wp/column-collection/vds2/