お金になる価値を科学的に作る(VMチャートその1):お金になりやすい価値開発
Scientifically Create Value that can be Converted into Money (VM Chart part 1): Value development that can be efficiently converted into money
お金を通貨や貨幣だと思い込んでいる人も多いと思いますが、貨幣は、商品やサービスの交換や流通を円滑にするための物体や媒介としての機能で、価値尺度、交換・流通手段、価値貯蔵手段などの機能を備えています。一方、通貨は流通する貨幣を意味し、貨幣の交換や流通の手段としての機能で、日本においては、現金通貨は紙幣と硬貨、預金通貨は普通預金や当座預金などの預金残高を合わせた広義で通貨と呼ばれています。ちなみに、日本の通貨単位は「円」で、紙幣は日本銀行が発行し、硬貨は日本政府が発行しています。このため日本の紙幣は日本銀行券とも呼ばれることがありますが、紙幣や硬貨だけがお金ではないのです。
近年電子マネーの普及も進み、紙幣や硬貨が利用される機会は減っていますが、多くの人はお金と言えば物理的な紙幣や硬貨を連想すると思いますが、ビットコインを始めとすると仮想通貨やポイント等を利用した決済サービスが生活に普及しています。お仕事をして、その対価を物理的な貨幣でもらう必要があるのでしょうか?近年電子マネーで給与を受取ることができる制度も始まり、物理的なお金の存在よりもデジタル通貨(電子マネー)の方がより一般化し始めているのかも知れません。つまり、お金は物理的な貨幣や硬貨である必要はないのです。お金の正体は機能で、交換できて、計測できて、貯めることができる機能の集合がお金です。言い方を変えると交換性、計測性、貯留性の3つが機能するものはお金と同じ機能を備えていることになります。実際、電子マネーや各種ポイントはこの3つの機能を満たしていて、消費者が商品やサービスを購入したり交換したりする際に電子マネーや各種ポイントの価値が購入したり交換したりしたい商品やサービスが備えている価値と交換されているのです。価値経済工学ではこの価値と価値の交換のメカニズムを集合論と確率論を用いて分析します。VDシート(参考コラム:お金になる価値を見える化(KPI)する(VDシートその1):価値のお金と同じ機能分析)を用いることで、企業、事業、商品、サービスが備えているお金と同じ機能を分析しながらその価値を可視化させることが可能で、この可視化された情報をレゴのブロックのように運用することで効率的にお金になりやすい価値(企業、事業、商品、サービスなど)を開発します。この価値作りに利用するのがVMチャートでValue to Meneyチャートを意味しています。
このコラムでは、「お金になる価値を見える化(KPI)する(VDシートその1):価値のお金と同じ機能分析」コラムを読んだ事を前提としてVMチャートを解説したいと思いますが、VMチャートは3種類あります。価値のお金と同じ機能分析のVMチャート、価値の機能性分析のVMチャート、価値の潜在需要分析のVMチャートがあり、その運用方法は異なりますが、ここで解説する価値のお金と同じ機能分析のVMチャートは全てのVMチャートの基礎となります。「価値の機能性分析のVMチャート」と「価値の潜在需要分析のVMチャート」は別のコラムでそれぞれ解説します。
「お金になる価値を見える化(KPI)する(VDシートその1):価値のお金と同じ機能分析」コラムでは以下図1に示すウェルネス・ワインの経済価値分析表と図2に示すウェルネス・ワインのお金と同じ機能分析VDシートの結果が導かれるプロセス(過程)を解説しました。VMチャートではVDシートで分析された結果を用いてお金になりやすい価値を開発して行きます。価値のお金と同じ機能分析のVMチャートでは先ず図3に示すようにお金と同じ機能分析VDシートから得られた各機能と各正体をコピーしてVMチャートにペイストし、各正体に図3で示すように記号を付けて行きます。各機能には3つずつ以上の正体が分析されているので、各機能性に対して9つ以上の記号が正体に付けられていることを確認します。計測性(MV)であればMV1~MV9までの記号が付けられています。ここでのポイントは異なる機能性において同じ正体が分析されていても記号を同じにせずに異なる記号で管理します。例として、「癒し」は交換性と貯留性でそれぞれ分析されていますが、交換性の「癒し」はCV2、貯留性の「癒し」はSV1として記号を付けておきます。次に、計測性と交換性を兼備えた集合機能をMCV、交換性と貯留性を兼備えた集合機能をCSV、計測性と貯留性を兼備えた集合機能をMSVと定義し、各セルの下に各集合機能を3つずつ書出すように準備をします。
図1 ウェルネス・ワインの経済価値分析表
図2 ウェルネス・ワインのお金と同じ機能分析VDシート結果
図3 価値のお金と同じ機能分析のVMチャート例
価値のお金と同じ機能分析のVMチャートでは各集合機能を抽出して行きますが、ここでのコツは必ずしも言葉や文章で集合機能を定義するのではなく、各集合機能を識別するために言葉や文章を付加えることを意識します。MCVを抽出するために計測性(MV)と交換性(CV)に分析されている各正体を眺めながらグループとしてまとめることができる正体を考察し、同様にCSVでは交換性(CV)と貯留性(SV)の各正体を眺めながら考察し、MSVでは計測性(MV)と貯留性(SV)の各正体を眺めながら考察を行います。繰り返しですが、グループを適切な言葉や文章で定義できる必要はありません。自分の感覚で各異なる機能性に分析されている正体から1つずつ以上選択しすることで各集合機能を3つずつ以上定義します。
図4には各集合機能の抽出例をまとめてあります。MCV1ではMV1(ストレス感)とCV7(ストレス緩和)をグループとして定義し、「ストレス感」としてグループに名前を付けました。CSV1ではCV2(癒し)、CV7(ストレス緩和)、CV8(疲労回復)、SV1(癒し)、SV3(回復)をグループとして定義し、「ウェルビーイング」としてグループに名前を付け、MSV1ではMV7(健康度)、MV8(やすらぎ)、SV2(健康)、SV7(ウェルビーイング)をグループとして定義することで「健康状態」と名付けました。言葉や文章は何かを説明したり第三者と情報共有したりする場合にとても便利なのですが、その言葉のニュアンスや価値観は人により異なるので自分で定義した言葉や文章が第三者と同じニュアンスや価値観として共有されるとは限らないのです。価値経済工学では言葉や文章により生じる先入観を最小化しながらお金と同じ機能を開発することでお金と同じように別の価値と交換されやすい価値を正体(源泉)の集合として定義することを行います。
図4 集合機能の抽出例
各集合機能を3つずつ定義して何らかの言葉や文章でグループに名前を付けたら図5に示すように各定義した集合機能に対応する源泉をウェルネス・ワインの経済価値分析表で定義した源泉から割当てて行きます。MCV1(ストレス度)に対応する源泉は「飲むマインドフルネス」、「ストレス緩和」、「疲労回復」で、MCV2(疲労対策)に対応する源泉は「飲むマインドフルネス」、「低アルコール」、「自然との調和」と割当てることができましたが、MCV3(解放)に対応できる源泉がありませんでした。このような場合はこの集合機能に対応できる源泉を新たに追加します。この例では新たな源泉として「解放」を追記することでMCV3に対応させました。このプロセスはお金と同じ機能を分析する過程においてお金になりやすい機能を定義できる言葉や文章が経済価値として定義した言葉(源泉)に欠落していたものの、VMチャートを作成する過程においてお金になりやすい機能を備えた言葉を抽出し、可視化することができたのです。価値経済工学ではこの可視化技術をVDメソッドと名付けていて、考えても思いつくことができない重要な言葉を可視化させる手法で、「お金になる価値の見つけ方(VDメソッドその1)」コラムと「お金になる価値の見つけ方(VDメソッドその2)」で解説しています。各CSVと各MSVについてもMCVと同様に対応する源泉を書き加えながら欠落している源泉がないか考察を進めて行きます。全ての集合機能に対応する源泉を書き終えたら図1で作成した経済価値分析表に新たに見つけることができた源泉を追記します。ここでの例では「解放」を経済価値分析表に追加します。この際に各源泉の寄与度を見るのではなく、各源泉の言葉を眺めながら「解放」の位置を見積もります。この結果として、「解放」は「飲むマインドフルネス」よりも小さくて、「ストレス緩和」よりも大きい言葉であると定義することにし、全ての源泉の寄与度の合計を100%に保つために寄与度を下げられる源泉を考察します。この結果として「ビオディナミ」と「低アルコール」の寄与度をそれぞれを5%に減らして、「解放」の寄与度を10%とし、さらに「ビオディナミ」を「低アルコール」よりも同等以下、「疲労回復」よりも同等以上と定義することにしました。図6は以上の考察結果を反映することで更新したウェルネス・ワインの経済価値分析表になります。
図5 集合機能の源泉分析
図6 更新したウェルネス・ワインの経済価値分析表
各集合機能に対応する源泉を割当てたら図7に示すようにVMチャートをまとめて、各割当てた源泉に寄与度を追記し、各集合機能における源泉の寄与度を計算します。例として、MCV1の源泉寄与度は
飲むマインドフルネス(10%)+ストレス緩和(10%)+疲労回復(5%)=25%
と計算し、寄与度を追記し、各集合機能についても同じように寄与度を計算します。全ての寄与度が計算できたら各集合機能単位での寄与度を計算します。例として、MCVは
MCV1(25%)+MCV2(20%)+MCV3(10%)=55%
と計算し、CSVとMSVについても同じように計算を行い、全ての各集合機能単位の寄与度を合計することで寄与度合計(55%+85%+85%=225%)を計算し、各集合機能単位の寄与度率も計算しておきます。寄与度率は集合機能単位の合計値を寄与度合計値で割ったものを%表示することで算出できます。
このウェルネス・ワインの例ではCSVとMSVの寄与度率がそれぞれ37.8%でMCVの24.4%よりも大きいことが分析できました。現時点で定義できているウェルネス・ワイン(経済価値)はお金と同じ機能において、交換性と貯留性の共通している機能(積集合:交換性∩貯留性)と計測性と貯留性の共通している機能(積集合:計測性∩貯留性)が計測性と交換性の共通している機能(積集合:計測性∩貯留性)よりも濃度が大きいことが分かりました。少し難しい解説になっていますが、数字に限らずある集合関係を分析する際に集合論では、ある集合の要素の個数に関わる概念を無限個の集合についても適用できるよう一般化する際に濃度を考察しますが、このコラムでは集合論と濃度の説明は割愛します。
図7 価値のお金と同じ機能分析のVMチャート例:集合機能分析
各集合機能の分析を終えたら3つの集合機能MCV、CSV、MSVの共通の集合機能であるMCSVの分析を行います。このMCSVは計測性・交換性・貯留性の機能を兼備えた各集合機能の共通集合で、計測性∩交換性∩貯留性=MCSVとも表記できます。補足の説明になりますが、VMチャートではウェルネス・ワイン(経済価値)の計測性(MV)、交換性(CV)、貯留性(SV)を分析し、その各機能(必要条件)の十分条件となる正体を分析しました。この各機能において分析された正体の集合に共通の集合がMCSVですが、あえて集合機能であるMCV(計測・交換性)、CSV(交換・貯留性)、MSV(計測・貯留性)をそれぞれ分析し、更にその集合機能の集合機能としてMCSVを分析する意図はお金と同じ機能の正体(言葉)を濃縮するためです。私たちはコミュニケーションにおいて様々な言葉を使い合わせることで相手方に自分の意図を伝えたり、その逆に相手方から様々な言葉で情報を受取ったりします。この情報のキャッチボールにおいて双方が必ずしも同じ理解や価値観を持つとは限らないのです。例えば、ハナコさんがウェルネス・ワインはとても良いですねとジローさんに伝えたとします、ジローさんはハナコさんにそうだね!と回答します。このような場合に、ハナコさんもジローさんも「ウェルネス・ワインが良い」とする情報には同意していますが、ハナコさんは実はウェルネス・ワインのウェルネス効果に対して良いと評価している一方で、ジローさんはウェルネス・ワインが比較的安価で美味しい点に関して良いと評価していたのです。つまり、両者は「ウェルネス・ワインが良い」と言う必要条件としての情報には同意できいるのですが、十分条件である「ウェルネス効果」や「比較的安価」としての情報では同意していないのです。つまり、二人のウェルネス・ワインに対する価値観は異なっているにも関わらず日常のコミュニケーションにおいて、二人の会話のように安易に価値を共有していることが多いのです。価値経済工学ではこのような課題を価値の要素となる情報を可視化させることで人の価値観のズレを調整できるようにします。この調整作業を行うために、あえて集合機能であるMCV(計測・交換性)、CSV(交換・貯留性)、MSV(計測・貯留性)をそれぞれ分析し、更にその集合機能の集合機能としてMCSVを分析する手順を行います。
図8にはウェルネス・ワイン(経済価値)とMCV(計測・交換性)、CSV(交換・貯留性)、MSV(計測・貯留性)、MCSV(お金と同じ機能)の関係をまとめてあります。言葉は日常のコミュニケーションにおいてとても便利ですが、言葉が包含している意味やその伝わり方は様々です。つまり、言葉だけでウェルネス・ワインの経済価値を評価したり、伝えたりしてもその本質的な経済価値を計ることはできないのです。価値経済工学ではこの言葉の問題を考慮した上でその言葉が含んでいる経済価値を解析したり取扱ったりすることができます。経済的に効果的な言葉の組み合わせを分析するために、図8ではMVチャートのプロセスで抽出されたMCV(計測・交換性)として「ストレス度」、「疲労対策」、「解放」を集合とし、CSV(交換・貯留性)として「ウェルビーイング」、「贅沢な時間」、「自分のリセット」を集合とし、MSV(計測・貯留性)として「健康状態」、「平穏」、「ウェルネス」を集合としてまとめています。MCSV(お金と同じ機能)を考察するために、各集合の言葉を眺めながら、各集合から1つずつ以上の言葉を集めることでまとめることができるグループを3つ以上考えて、そのグループの言葉を用いてウェルネス・ワインを説明する簡単な文章を書出します。図9にはMCSVを含んでいる言葉の組み合わせをまとめて、簡単な文章での説明も書き加えてあります。MCSV1はMCV3(解放)とCSV2(贅沢な時間)とMSV2(平穏)を1つのグループとし、MCSV2はMCV1(ストレス度)とCSV3(自分のリセット)とMCV2(疲労対策)とMSV1(健康状態)を1つのグループとして、MCSV3はMCV3(解放)とCSV2(贅沢な時間)とMSV3(ウェルネス)を1つのグループして、以下ように簡単な文章を作文してみました。
MCSV1:MCV3+CSV2+MSV2
⇒平穏で贅沢な時間に開放されるウェルネス・ワイン
MCSV2:MCV1+MCSV3+MCV2+MSV1
⇒ストレスや疲労をリセットして健康になれるウェルネス・ワイン
MCSV3:MCV3+CSV2+MSV3
⇒ウェルネスな解放と贅沢な時間を楽しめるウェルネス・ワイン
図8 各集合機能とお金と同じ機能(各集合機能の共通集合)
図9 お金と同じ性質の価値例
このVMチャートの手順で抽出できた言葉と文章にはお金と同じ性質の機能を備えた言葉が濃縮されています。1人でVDシートとVMチャートのプロセスを進めた場合、その結果として得られ得た言葉と文章には自分の価値観がお金になりやすい言葉で整理された結果となり、複数人で各プロセスを進めた場合、その複数人の価値観において共通の価値観がお金になりやすい言葉で整理された結果となります。ウェルネス・ワインの例では、働いている女性に1本定価3,000円でウェルネ・ワインを販売することをベクトルに定めているので、VDシートとVMチャートを実施した人に働いている女性が含まれているのであれば1人でも複数人でもその結果として得られた言葉と文章はベクトルに対応した経済価値として機能しやすい性質が備わりますが、働いている女性でない人が実施した場合は結果として得られた言葉と文章には働いている女性に機能する経済価値として機能が不十分なことがあります。このような場合に有効な手法として「価値の機能性分析のVMチャート」と「価値の潜在需要分析のVMチャート」が利用できます。この可視化された経済価値の補正は商品やサービスのマーケティングやブランディングにも応用できるので、別のコラムで詳細を解説したいと思います。
VMチャートを運用することで、ウェルネス・ワインを市場に説明することでお金になりやすい言葉の組合せを可視化させることができました。まず、MCSV1は「平穏で贅沢な時間に開放されるウェルネス・ワイン」とウェルネス・ワインを説明しています。この説明は「平穏で贅沢な時間に開放される」の部分で、ウェルネス・ワインとして商品を市場に提供した場合、「ウェルネス・ワイン」のネーミングに対する価値観は人により異なりますが、ウェルネス・ワインを説明する言葉が備わることで価値観の違いにより生じる市場とのミスコミュニケーションを解消しながら、適切な消費者へ当社が提案する商品(ウェルネス・ワイン)を販売することができるのです。この販売者と消費者との間に生じるミスコミュニケーションは販売したい商品の販売を妨げるだけでなく、その商品の市場価値を毀損(きそん)することにも発展します。消費者が期待したものと商品にズレが生じることで消費者にはその商品は無駄な消費になり、損をした気持ちを抱かさせてしまいます。2002年ノーベル経済学受賞者のダニエル・カーネマン先生らの研究成果により、「損失による悲しみ」は「利得による喜び」の2倍以上であることが明らかにされました。つまり、ウェルネス・ワインを購入した消費者に無駄な消費をさせた気持ちを抱かせるのはマーケティング戦略においてもブランディング戦略においても得策ではありません。VMチャートにより抽出できた「平穏で贅沢な時間に開放される」はウェルネス・ワインのネーミングから「平穏で贅沢な時間に開放される」価値に対してお金を支払っても良いと考える消費者に対して有益な情報で、この価値の対価として消費者はお金をウェルネス・ワインに対して支払うことで「平穏で贅沢な時間に開放される」価値観を満たすのです。これはMCSV2における「ストレスや疲労をリセットして健康になれる」とMCSV3における「ウェルネスな解放と贅沢な時間を楽しめる」においても同じです。つまり、ウェルネス・ワインに対してお金を支払う対価にフィットする価値観を持っている消費者にウェルネス・ワインを効率的に販売できるのです。商品の販売計画においてその商品がどの程度マーケットにフィットするのか分析することをプロダクトマーケットフィット(PMF)と言いますが、実はこのPMFの考え方は重要なのですが具体的にPMFを実現する方法として有効な手法は確立されていません。この点におてい、価値経済工学ではこのPMFをVDシートとVMチャートを運用することで満たすことができます。VMチャートにより抽出できた言葉や文章は一見当たり前のように思えるかも知れませんが、ウェルネス・ワインを消費者に伝える言葉の組合せやその組み合わせから作ることができる文章はほぼ無限通り作れますが、価値経済工学ではその無限に近い組合せの中からお金になりやすい性質とPMFを満たした言葉の組合せを効率的に可視化させることができるのです。
VMチャートの運用によりある価値観を持っている消費者に対してPMFを作れる一方で、MCSVの分析において考えてもグループ化できていない言葉の組合せや文章は無数にあり得ます。この無数にある組合せの中には既に抽出できた言葉の組合せよりも効果的な組合せがあるかも知れません。この効果的な組合せを定性的に分析できる手法が源泉分析表で、図10にはウェルネス・ワインの源泉分析表を示しています。この表では集合機能として抽出した各MCV、CSV、MSVを構成している源泉を視覚的に分析するために、各集合機能に含まれている源泉に〇印を付けることで整理します。例として、MCV1には、「飲むマインドフルネス」、「ストレス緩和」、「疲労回復」が対応する源泉として含まれているので、源泉分析表におけるMCVの1のコラムでそれぞれの源泉に対応しているセルに〇印を付けて行きます。同様に全ての集合機能に対して対応している源泉のセルに〇印を付けることで各集合機能と源泉との関係を可視化しながら定性的に評価することが可能となります。どの源泉が他の源泉と比較してより多くの集合機能に対応しているのか、どの集合機能がより多くの源泉に対応しているのかなど考察に役立ちます。
図10 ウェルネス・ワインの源泉分析表
次に、図10で作成した源泉分析表を拡張して、各MCSVも加えることで図11に示すようにMCSVを含めた源泉分析表を作成します。ここでも各MCSVに対応している源泉に〇印を付けることで表を完成させ、全てのMCSVに〇印が付いている源泉と全く〇印が付いていない源泉に注目します。この例では、「健康」、「飲むマインドフルネス」、「自然との調和」が全てのMCSV(お金と同じ機能を備えている集合)の源泉として対応している事が分析できて、その一方で、「有機葡萄」はどのMCSVの源泉にも対応していないことが分析できました。この結果から、「健康」、「飲むマインドフルネス」、「自然との調和」の言葉は他の源泉(言葉)よりもより効率的に消費者に対してウェルネス・ワインの販売においてフィットしやすくて、消費者がウェルネス・ワインに対してお金を支払いやすい価値観に対応していることが分析できます。反対に、「有機葡萄」はウェルネス・ワインの販売において重要な要素だと考えていたのですが、どのMCSVにも集合機能(MCV、CSV、MSV)にも対応していなことが分かり、消費者へウェルネス・ワインを販売する点において「有機葡萄」はフィットしない言葉で、お金になり難い言葉であることが分析できました。VDシートとVMチャートのプロセスを経ながら考え出すことができた言葉の組合せが各MCSVですが、源泉分析表を作成することで考えてもひねり出すことができなかった効果的な言葉の組合せや不要な言葉を判定することができました。
図11 MCSVを含めた源泉分析表
MCSVを含めた源泉分析表から得た結果を経済価値分析表に反映するために、図12に示すように経済価値分析表を考察します。ここでは経済価値分析表から「有機葡萄」を削除し、その寄与度を「健康」、「飲むマインドフルネス」、「自然との調和」に振り分けることにし、図13に示すように経済価値分析表を更新しました。この結果の興味深い点として、ウェルネス・ワインを計画した段階において重要だと考えていた「有機葡萄」や「ビオディナミ」の要素はウェルネス・ワインを消費者へ効果的に販売する点においてはそれほど重要ではないことが価値経済工学の分析を進めながら気が付くことができて、「有機葡萄」はウェルネス・ワインの要素から削除して、「ビオディナミ」の要素は小さくすることでウェルネス・ワインがある価値観を持っている消費者に対してフィットしやすくて、お金になりやすい言葉の組合せであることが解析できたのです。図14には整理した源泉分析表を示してあります。VMチャートを用いてウェルネス・ワインを分析した結果としてお金によりなりやすい機能を備えている源泉を可視化して定性的にまとめることができました。
図12 源泉分析表の結果を反映した経済価値分析表
図13 源泉分析表の結果を反映した経済価値分析表
図14 整理した源泉分析表
価値のお金と同じ機能分析のVMチャートは価値のお金と同じ機能分析のVDシートから得られた結果を運用することでお金になりやすい言葉(源泉)の組合せを効率的に分析しながら特定の価値観を持っている消費者に対してフィットしやすい言葉の組合せや文章を作ることができます。一般的に、事業計画やマーケティング戦略を作る場合、ある商品が市場においてある程度フィットしていて、販売を目論んでいる消費者に対してそれなりにその商品が販売できることが暗黙の了解として仮定されていますが、販売する予定の商品やサービスがどのように消費者に伝わり、どのような価値観で消費者が商品やサービスに対してお金を支払うことでその対価である価値を得たいのか直接的に知る余地はありません。この課題に対してコストをかけて市場調査を行ったり、WEBやSNSなどを活用したり、アンケートを実施することで消費者の情報を把握したり需要を分析したりします。これの手法は統計学やベイズ推定技術を用いたりAIを利用したりすることである結果を得ることができますが、販売しようとする商品やサービスのコンセプトやそもそも消費者の価値観にフィットした価値が提供できるのかは仮説に基づきます。つまり、そもそもの仮説に間違いや消費者の価値観にフィットしない価値を調査したり分析したりしても無意味なのです。この根本的な消費者とのズレを補正できるのがVDシートとVMチャートです。VDシートでは商品やサービスの経済価値をレゴのブロックのように分解することで消費者にフィットする形に再編したり消費者がお金を支払ってでも交換したりしたい価値として情報を伝えることができるようになります。この機能する情報の組合せを価値経済工学では情報薬と呼んでいます。お薬のように人に効果をもたらす情報体で、VDシートとVMチャートはこのお薬を調合するためのツールの役割を果たしています。熱のある人の熱を下げるための解熱剤のように、ある価値観を持っている消費者に対して効果をもたらしやすい情報を分析して、その情報の効果的な組合せを見出すことができます。但し、これら調合された言葉は実際のお薬と同じように確実に全ての消費者に機能する訳ではなく、ある条件を満たしている消費者に機能しやすい特徴があります。この条件はTPO(タイミング、場所、場合)による消費者の価値観です。ある情報を持っている消費者には機能しやすい一方で、ある情報を持っていない消費者には機能しない性質もあります。これらは価値経済工学の基本定理でもある価値は価値観の複数形であるとする定義に起因します。価値観は各個人に固有ですが、価値はそれぞれの価値観が重なりあっている部分集合(Aさんの価値観∩Bさんの価値観=AさんとBさんの価値)で、2人の異なる価値観の要素で共通の部分が価値となり、この価値の内、お金を払ってでも交換したい価値が経済価値(価値⊇経済価値)になるのです。
図14にはウェルネス・ワインをVMチャートで解析した結果をまとめてあります。MCSV1、MCSV2、MCSV3はVMチャートを作っている個人もしくは人達が考察しながら抽出することができた情報薬ですが、「健康、飲むマインドフルネス、自然との調和と言えば」の組合せが情報薬としてある特定の消費者がお金を支払いやすい機能を備えていることは抽出できませんでした。源泉分析表を用いることでMCSV(お金と同じ機能の言葉の集合)として最も効率的な言葉の組合せであることが導き出せたのですが、この背景には人間の先入観が関わっています。MCSV1、MCSV2、MCSV3の組合せを考察した際には自分の知識や経験を踏まえてグループ化できる言葉を考察したはずですが、自分の知識や経験など自分の持っている情報を超越した組合せも存在するはずですが、人間は理解できない組合せに対して同じグループとして定義することに違和感が生まれ、また、そのグループの関係を説明することができないことが意識的なグループ化を妨げるのです。似たような実例として、人工知能(AI)のディープラーニング(深層学習)という技術において、大量のデータをAIに学習させて、データ間のつながりを効率的に見つけることで非常に精度の高い予測をすることができるのですが、どのようにAIがその答えを導き出したのかに関して未だ人間には理解できないのです。この課題に対して価値経済工学では1つの仮説として無限集合と有限集合の性質の差に答えがあり、位相空間の次元論(Euclidean n space: ユークリッドn空間)で説明できると考えています。別のコラムでこの可能性に関して議論してみたいと思います。
図15 経済価値になりやすい言葉の組合せ(情報薬)
価値のお金と同じ機能分析のVMチャートでは定義した経済価値を構成している要素を用いてお金になりやすい要素(源泉)の組合せを効率的に解析することができます。この解析手法は言葉がある価値観の要素により成立している集合として定義し、その集合の組合せにより価値の性質が変化し、その変化する性質を用いて価値の部分集合であるお金になる価値を人為的に開発する手続きを行います。価値観を構成している要素を全て可視化させることは不可能ですが、ある言葉が包含している情報(意味)やその言葉に対する個人の価値観の部分集合として価値観を集合論に基づいて演算したり、分析したりすることは可能です。つまり、ある価値を構成している情報の集合関係とある価値観を構成してる情報の集合関係とお金を機能の集合と定義することで、その機能の集合関係の要素になる言葉をそれぞれ分析しながらお金と同じ機能になる言葉の組合せを解析はするものの価値経済工学では価値観や価値を構成している全ての要素を可視化させたり抽出したりはしません。価値も価値観も日々変化する性質があるのである時点においてその要素を定義するよりもその価値や価値観の濃度がどのように変化するのか、また、どのような条件下において経済価値の確率濃度を高めることができるのかについて分析できることの方が一般社会やビジネスにおいては汎用性があるのです。ある会社の株価が現時点において明日いくらになるか把握できるよりもその株価が現時点からある時点において80%程度の確率で値上がりするための条件を把握できた方が実用的で、ビジネスを行う戦略の立案や事業を開発するために最適な投資方法や計画作りにも役立てることができます。現時点の情報は次の時点において更新されるので、現時点で得られた結果が未来のある時点において同じである保証はないのです。
著者 並木 幸久
Ver. 240909001
<参考コラム>
お金になる価値の素
http://wiph.co.jp/wp/vee/element/
お金になる価値の必要条件と十分条件
http://wiph.co.jp/wp/vee/necessary_and_sufficient/
お金になる価値 の見つけ方(VDメソッドその1)
http://wiph.co.jp/wp/vee/vdm_part1/
お金になる価値 の見つけ方(VDメソッドその2)
http://wiph.co.jp/wp/vee/vdm_part2/
お金になる価値を見える化(KPI)する(VDシートその1)
http://wiph.co.jp/wp/column-collection/http-wiph-co-jp-wp-vee-vds_part1/
価値経済工学:お金になる価値を見える化(KPI)する(VDシートその2):価値の機能性分析
http://wiph.co.jp/wp/column-collection/vds2/
価値経済工学:お金になる価値を見える化(KPI)する(VDシートその3):価値の潜在需要分析
http://wiph.co.jp/wp/column-collection/vds3/