ウェルネス経済:ウェルネス経済とは
Wellness Economics: What is the Wellness Economics?
ウェルネス経済とは、ウェルネスに関わる経済でマクロ・ウェルネスとマイクロ・ウェルネスに分けて、マイクロ・ウェルネスは人の内面に関わる経済で、マクロ・ウェルネスは人の外面に関わる経済と定義します。マイクロ・ウェルネスには医療、健康、フィットネス、ウェル・ビーイング、美容などが含まれ、マクロ・ウェルネスにはホスピタリティー、旅行、教育、スパ、セラピー、ファッション、衣食住、ウェルス・マネジメント(富裕層に限られない)、ライフ・マネジメントなどが含まれます。ウェルネスの言葉としての定義は難しいものの、その言葉はポジティブな印象を消費者に与え、多くの産業領域においてウェルネスを用いたブランディングが利活用されていることもあり、その裾野の広さがウェルネス産業の1つの特徴です。ウェルネス経済において、ウェルネスはポジティブな雰囲気で、また、自分らしさや人の生活の質(QOL)を維持もしくは豊かにするモノやサービスがその実態になっていますが、費用対効果が明確でない期待経済で成立しています。つまり、消費者はウェルネスに自分に対するポジティブな効果を期待するものの、ビジネスを提供する供給者はその消費者の期待投資に対して明瞭なリターンを提供しなくてもウェルネス経済の市場は成立しているのです。サプリメントの市場に類似しているのかも知れませんが、自分の健康に良いと思う消費者はそのサプリメントを購入して摂取することで、自分の健康の質に良い効果があると信じます。ここでの課題はこの自分の健康に良いかも知れない効果を定量的にもしくは定性的に評価することが難しいので、本当にそのサプリメントが自分の健康に良いのか分からないにも関わらずある人はそのサプリメントを摂取し続けることでウェルネスを期待し、そのサプリメントを提供する企業はウェルネス効果により収益を得られるのです。冷静に考えるとある種奇妙な経済現象ですが、ウェルネスの期待経済が成立している背景には消費者の曖昧な期待と企業の漠然としたプロダクト・マーケット・フィット(PMF)で成立しているのです。また、ウェルネスはある特定の健康効果が期待されるサプリメントのように層別化された需要よりも広範な需要に機能するもので、自分らしさや人の生活の質(QOL)に対してポジティブな期待を消費者に抱かせる効果があります。ここで興味深いのは、PMFが満たされているのであればその商品やサービスが市場に適正に受け入れられている状態であり、需要と供給の関係において適正な価格で供給と消費が行われているはずです。ウェルネス経済において、サプリメントの市場と異なるのは層別化された期待経済ではなく、個別化(自分化)された期待経済である点です。ウェルネスには、自分らしさや人(自分)の生活の質(QOL)を維持もしくは豊かにするための経済(情報:シグナリング(参考情報1))が隠れていて、ウェルネス経済はこの期待経済により成立しているのです。
シグナリング理論は、「市場において、情報の非対称性を伴った場合、私的情報を保有している者が、情報を持たない側に情報を開示するような行動をとるというミクロ経済学における概念」(参考情報1)で、2001年にノーベル経済学賞を受賞したマイケル・スペンス先生によってはじめて分析されました。
ウェルネスには、自分らしさや人(自分)の生活の質(QOL)を維持もしくは豊かにするためのシグナリング(参考情報1)を備えていて、このシグナリング効果により自分らしさや人(自分)の生活の質(QOL)を維持もしくは豊かにしたい消費者のナッジ(参考情報2)となり、このナッジ効果によりウェルネス経済に消費が発生するメカニズムが説明できます。
ナッジの概念は、リチャード・セイラー先生とキャス・サンスティーン先生が2008年に出版した著書「Nudge: Improving Decisions About Health, Wealth, and Happiness」でhはじめて紹介され、リチャード・セイラー先生は2017年にノーベル経済学賞を受賞しました。
このシグナリングとナッジの効果は、層別化された期待経済の仕組みにおいても説明ができます。目が疲れやすい消費者に対して目の疲労を緩和したり疲労を予防できたりする効果が期待されるサプリメントはシグナリング(参考情報1)を備えていて、このシグナリング効果により目が疲れやすい消費者のナッジ(参考情報2)となり、このナッジ効果によりサプリメントが消費されるメカニズムが説明できます。
層別化市場においては同じ期待価値を持っている消費者に対して期待経済が機能し、個別化(自分化)市場においては自分らしさや人(自分)の生活の質(QOL)を維持もしくは豊かにするための期待価値に対して期待経済が発生するのです。つまり、層別化市場においてはある層に対して適切なPMFが重要で、ある層の消費者が抱く悩みを解決に導く最適な策を見つけることでプロブレム・ソリューション・フィット(PSF)が作れることになり、マーケティング戦略やブランディング戦略においてある層に対して分析を行うことで商品やサービスに対する期待経済を戦略的に作ることができるのです。この一方で、個別化(自分化)市場においては自分らしさや人(自分)の生活の質(QOL)を維持することが重要で、必ずしも層別化市場と同じではありませんが、層別化市場と類似するケースもあります。例えば、ウェルス・マネジメントにおいて、市場ではウェルス・マネジメントサービスは富裕層に向けたサービスが多い一方で、年金生活が難しくなる日本社会では個人が保有する資産を包括的に管理することで、年金だけに頼らないある種の社会保障(Social Security)が求められています。日本政府は国民に貯蓄から投資を促し、少額投資非課税制度(NISA: Nippon Individual Savings Account)を拡充し、富裕層に限らない全国民のウェルス・マネジメントに選択と優遇を与えることで後押しをしています。金融系企業はこのウェルス・マネジメントサービスにおいて富裕層を層別化した顧客とすることで富裕層が期待するウェルス・マネジメントサービスを提供していますが、政府は国民一人一人に自分で自分のウェルス・マネジメントを行うことを奨励しながら国民が年金だけに頼ることなく、自分らしさや人(自分)の生活の質(QOL)を維持もしくは豊かにできるような期待価値に向けた投資をある種誘導しているのかも知れません。ここでのポイントは、国民一人一人に自分のウェルス・マネジメントを実践してもらうことは個別化されたウェルス・マネジメントが日本市場には広がっていて、今後この富裕層ではない個人消費者を対象としたウェルス・マネジメントサービスが新たなウェルネス・サービスとして広がることが予測できます。
ウェルネス経済は自分らしさや人(自分)の生活の質(QOL)を維持もしくは豊かにするための期待価値に対して発生する期待経済です。ウェルネス経済の特徴は個々人によりその期待価値は異なり、また、その期待経済も異なる複雑さがあります。この一方で、層別化市場ではある種その層における平均的な期待価値が求められる一方で、ウェルネス経済では各個人の期待価値に対してその期待経済が消費されることで成立します。これは電気や水道のようなユーティリティー型の産業に類似しており、個別化医療や人の生体情報を用いたバイオメトリクス(生体認証)関連サービスに限らず、ある個人に個別化された商品やサービスの多様化が予想され、自分の情報が市場で流通し、自分化した商品やサービスをいつでも消費できるような新しい産業インフラが拡大し、あなたが常時インターネットに接続されているIoYou (Internet of You)がウェルネス経済の幕開けになるのかも知れません。金融市場、インターネット・IT市場をしのぐ生体情報市場が近い将来人類の革新的な経済となり、IT革命と市場をけん引してきたGAFAMは時代の化石となり、ウェルネス経済をけん引する企業達が歴史の主役になることでしょう。
著者 並木幸久
Ver. 230331001
<参考情報>
- シグナリング、ウィキペディア、https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%82%B0%E3%83%8A%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B0 、2024/03/31
- ナッジ、ウィキペディア、https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%83%83%E3%82%B8 、2024/3/31
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